おいしい福島牛を
つくる取り組み
販売促進を通じて地域に貢献。
全国農業協同組合連合会福島県本部(JA全農福島)
畜産部 畜産販売課 課長代理 鈴木 健一さん

このたびの「酒粕を牛に与える」というアイデアは、どのように生まれ実現につながったのでしょうか。その経緯を知るために訪れたのが郡山市にあるJA全農福島の畜産部畜産販売課です。JA全農福島畜産部は、福島県内の畜産農家と連携して、福島牛の価値向上を図りながら販売活動を行っています。福島牛の品質は、もともと関係者の間では全国的に知られていました。それでも、贈答用として買われることが多い牛肉では、他県産と並んだ時、福島県産は選ばれにくい傾向が続いていました。また、各地が日々切磋琢磨を重ねている中、一度他県産に奪われた販路を取り戻すのは容易ではありません。震災から数年が経過しても、県産牛は、全国平均と比べて、1kgあたり1割ほど低い価格で取引される状況が続いています。「品質では負けないのに、価格が伴わない。何とかしたいという想いでした」と鈴木課長代理は語ります。

転機が訪れたのが2年ほど前。「私の上司が『消費者への売り文句が欲しい。それには日本酒王国ふくしまの酒粕だ』と言い出したんです」と鈴木課長代理は振り返ります。当時、福島県は全国新酒鑑評会で7回連続日本一を受賞。また、天栄村の松崎酒造では、パウダー状にした酒粕を消費者向けの健康補助食品として販売した実績がありました。さらに、余分な酒粕を養豚農家へ提供する取り組みも行っていたのです。酒粕が取れるのは10月~5月頃と限られ、水分を含むペースト状では長期保存できませんが、乾燥してパウダー状にすることで、一年を通じて安定供給が可能でした。こうしたノウハウを生かして、JA全農福島では、若手を中心としたプロジェクトを立ち上げ、酒粕を牛に給与する取り組みを開始しました。

一方、JA全農福島にも十分なノウハウを持たない点がありました。酒粕を給与することで牛にどんな変化が現れるかを科学的に分析することです。福島県では毎年、農業関係者に調査・分析したいことをヒアリングするアンケートを行っています。そこに、「酒粕を牛に給与したい」というアイデアを記載したことがきっかけとなり、酒粕を福島牛に給与する取り組みを福島県と一緒に行うことになります。特に、酒粕の給与方法や肉質の調査・分析方法等で連携することで、より成果が見えやすい施策への磨き上げにつながりました。「JAは全国組織でも、都道府県が変われば、お互いの地域の農畜産物を販売し合うライバルです。自分たちの地域の肉が少しでも高く売れることが、農家の収入を増やし、やる気にもつながる。それが地域の畜産業を育てることになります」と鈴木課長代理は言います。牛を育てる農家、酒粕を提供する蔵元、品質を科学的に分析する福島県、そして、よりよい条件での販売に努めるJA全農福島。関係者がお互いの想いをつなぎ合いながら、酒粕を福島牛に給与する取り組みは続けられています。