おいしい福島牛を
つくる取り組み
科学的視点から農家を支援。
福島県農業総合センター畜産研究所
肉畜科 原 恵(めぐる)、小松 一樹

福島県農業総合センター畜産研究所は、福島市の東北自動車道福島西インターチェンジから国道115号を西へしばらく進むと現れる牧草地に囲まれた施設です。もともとは1901年に現在の郡山市熱海町石筵に種馬の飼養場として設立され、1942年に現在の場所へ移転。食料事情の変化に伴い、食肉や牛乳の摂取等が一般家庭に浸透されたことで、より生産性の高い牛や豚、鶏等の改良や飼料生産技術の開発も行うようになり今日に至ります。120年以上にわたって、福島県内の畜産農家のブレーンとして、品質向上や経営安定化等に貢献しています。今回は肉牛を担当する原恵科長と小松一樹研究員から、牛肉の肉質向上について話を伺いました。

「私たちの主な業務は、よりよい肉がつくれるよう、科学的視点から畜産農家を支援することです」と原科長は語ります。福島県が所有する種雄牛を改良し、その子牛に良質な飼料を食べさせ、肉質の仕上がり具合を生体及び食肉の状態で調査します。また、消費者の嗜好を把握しつつ、育種改良と肉質調査のPDCAを繰り返して、農家の経営向上につながる研究を重ねています。近年では県内各地の畜産農家を訪れ、牛の生体に超音波を当てて取得した超音波画像をAIで解析して、生きている状態から出荷時の肉質を予測して飼養管理の助言等を行っています。

このような取り組みを通じて、畜産研究所と生産者が連携し、さらなる上質な牛肉の生産を目指してきましたが、東日本大震災と原子力災害以降、福島県産牛の価格は全国と比べて低い状態が続いています。そうした中、JA全農福島から提案を受けたのが、牛に酒粕を給与するアイデアでした。福島県は、全国新酒鑑評会では9回連続で金賞を受賞しています。「酒粕を給与した牛に顕著な特徴が現れれば、福島牛のブランド向上につながる可能性があります。研究者として科学的な分析結果に基づいて評価するのが私たちの仕事です」と原科長は自身の役割を語ります。その上で、水分を含んだ酒粕を、牛が食べやすく、生産者が与えやすいようパウダー状にすることを提案。3か年計画で、給与量や期間を変えて肉質の変化を調査・分析することにしました。さらに、畜産研究所では「味覚センサー」を新たに導入し、うま味や酸味等、8つの指標で味覚を数値化できる環境も整備。担当する小松研究員は「ふくしまの畜産業の未来につながる研究に、責任と誇りを感じながら取り組んでいます」と語ります。農家の減少や高齢化等、課題が山積する県内の畜産業。現場を訪れ、生産者の苦悩を熟知するからこそ、科学的な立場から支援を続けています。このたびの酒粕を給与した牛の牛肉に、畜産研究所がどのような分析を行い、福島牛の品質向上につなげるか。その動向から目が離せません。
